自由 


by seikoitonovel
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11-2


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      『BLIND』9-6


 二人は話した。
 柄が白黒反対のシマウマの突然変異が生まれても誰も気づかないのではないか、と二人は言って笑った。
 教科書の誰に落書きをしたかと徹は言い出し、自分たちを含めて人はなぜチンギス・ハーンの顔の絵に何か付け足してしまうのかを美和と話しあった。
 白封筒の糊づけがうまくいった時の満足感が他の何とも違うと美和は話し、徹は糊づけのあとに〆(日本独特の封緘の記号)を書く時が特別だと言った。
 大根の辛さが苦手で自分は子供っぽい味覚を持っているのではないかと徹は話し、美和は自分はピーマンが苦いと思うと話した。
 初恋は二人とも中学生の時にしていて、どちらもしごく恥ずかしい顛末だったと告白しあった。
 月を見るのが好きだと意見が合い、仕事の帰りに駅までの道を首が疲れるほど見上げて過ごすことがあると徹が言うと、そんなに月がよく見えるところに勤めているのかと美和は確かめるように言った。
 年齢が違うことはわかっていたが、高校生の頃に熱中していたラジオ番組が同じであることがわかった。
 これまで見た中で一番汚い字を書く人の文字の列が死んだ虫の群れを模写した一枚の絵のようだったと美和は話し、徹はその絵が欲しいと言った。
 電話口に流れていくことがあるザーッという雑音が心地よいと二人は話した。
 留守番電話のメッセージはなぜ自分の声とあんなに違うのだろうと二人は言い、だから君が聞いている僕の声は本当の僕の声よりずっと低いと思うと徹は言い出し、であれば別の声同士が話しているのだと美和が言って、なんだかおそろしいような気がするという結論になった。
 切れかけの蛍光灯のチラチラする光が嫌いだと美和は言い、徹は子供の頃そういう蛍光灯だけを近所の空き家の庭に隠して集めていたことがあると言った。
 春の眠さは異様で一日の区切りなく眠ってしまうことがあると美和は言い、徹はそれは自分にもあると言ったあと今はどうかと思いきっておどけて聞いてみると、一瞬も眠くならないと美和は生真面目に答えた。
 徹の留守番電話に入っていた曲をなぜ徹が選んだのかを美和は知りたがり、徹は園田さんのことをくわしく話したがそれは答えにはなっていなかった。
 エイプリルフールで一番気の利いた嘘はなんだったかと話しあい、美和は明日のエイプリルフールどうする?と当日聞かれたことだと言い、その嘘はしかしなんのためについたのだろうと徹は考え込んだ。
 自分は歩き方に特徴があると言われると美和は話し、徹は自分は笑い方にあると言われると話した。
 冷たいものが総じて好きだと二人は話した。
 朝のスズメの声も好きだと二人は言った。
 木の葉なら若葉だと意見が合った。
 空は秋がいいと話した。
 幅の広い川を少し高い場所から見渡すのが好きだと二人は言った。
 ファストフード店のセットの組み立て方が男女ながらずいぶん違っていると驚いた。 
 今までで最もショックを受けたなくしものは読みかけの長編小説だったと美和は言い、タクシーの中につい置き忘れたそれを買い直したが結末がどこか違うのではないかと疑いが消えなかったと付け加え、徹は幼い頃気に入っていた緑色のキャップのことを思い出してしゃべった。
 長電話をすると耳の上の方が痛くなると美和は言い、もっと軽く受話器を持てばいいと答えた徹は自分の耳の上も実は痛いのだと打ち明けた。
 BGMがいらないと思う場所はどこかという話になり、海水浴場と徹は答え、美和は山を行く電車の中と言った。
 巨大迷路(木の壁を高く複雑に立てて作られた迷路の中を人が歩き、出口を探す遊具がある時期日本で流行した)に行ったことがあるかと徹は言い、美和は二度友人につきあって出かけたがどちらもほぼすんなり解けてしまって気まずかったと笑った。
 美和は大学で精読したトマス・ハーディの『日陰者ジュード』のあらすじを女性にだらしない男の苦難と略し、徹はただ相槌を打つだけで読みたくはならなかった。
 電話をしながらコップの水を飲むと受話器に触れてこぼれそうになるのでストローを使うことにしたと美和が言い、徹はペットボトルの中身を入れ替えて使おうと思うと言った。
 徹は今聞こえる君の声の少し鼻にかかったところがチャーミングだと誉め、美和は私こそそう思っていたと大きな奇跡を前にしたかのように言った。
 会ったこともないのにと徹は言い、会ったこともないのにと美和も言った。
 二人とも高校までの教室ではいつも前の方の席に座っていたことがわかり、一度後ろに座ってみたかったと嘆いた。
 雨が降ってきたと美和は言い、そっちはどうかと聞くと徹は降ってもいないのに降っていると答えた。
 電話をしていても相手の声以外のことは何もわからないけれど、自分としか話していないことははっきりわかると言い合った。
 二人は長く話した。


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by seikoitonovel | 2011-10-27 14:31 | 第一小説