自由 


by seikoitonovel
カレンダー
S M T W T F S
1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31

11-1


e0176784_095232.jpg
                                                       3月14日

 妹に好きな人が出来たのではないか。昨日も一昨日も、正確には四日前の午後九時を過ぎた頃から毎日、隣で一時間ほどtelをしている。日に日に夜遅い時間帯になる。言葉はわからないが、声の調子がはしゃいでいて少し気取っている。日が経つにつれ沈黙が長くなっていく様子が友だちのtelと違う。黙っている時、相手が話している気配もない。二人は耳を傾けあってる。彼女、私には決して相談しないだろう。
 朝は納豆、生卵、海苔、油あげとワカメの味噌汁、きゅうりの浅漬け。母と二人で。妹、起きて来ず。母の一人しゃべり。テーマは節税。聞くふり。
 8:32AMのバスで会社。乗車時、前のおじいさんが転びかけたのをとっさに支えたら左足から乗ってしまった。何年ぶりだろう。スキーで右足を折って松葉杖だった時以来。それが気になってか、エンジン音がいつもより高く聞こえた。最近耳がちょっとおかしいかも。
 社では一日パソコン仕事。迫田さん(今日は不機嫌だった。生理だろうか)が部長に提出する書類、インドネシア工場からのネックレス完成品がどんなペースで輸入出来るかの見積もりを手伝う。細かい計算に気をつかった。昼は陽華亭、長崎ちゃんぽん(本日75点)。
 午後、「不要な数字の確認(迫田さんはそう言った)」に私がこだわり過ぎるとクレームをつけられた。が、工場からは1~2%の欠損品が来る。特に月をまたいでのレポートに月末状況の記載漏れが多いのは事実。それを正しい範囲で予測出来るのならするべきと反論した。迫田さんはなにしろ不機嫌なので、常日頃の私の態度にまで文句を言い出す。
 つきあいが悪いと言う。人を見下して黙っていると言う。ふたつのことが同時に出来ないと言う。話しかけづらいと言う。言うまいと思ったが、思わずそれは全部迫田さんのことじゃないかと指摘した。すると迫田さんは目を丸くして、珍しいと言った。遠野さんにもそんな声が出るのか、と。私はさほど大きな声を出したつもりがなかったし、論点がずれている。拍子抜けがして、話しているのがバカらしくなった。
 残業なし。会社飛び出る。19:02PMバス。希山停留所付近、大幅な道路工事が始まっている。季節外れ。冬にまとめればいいのに。
 夕食は家で。母と妹が作った春巻(具の水切りが甘いのか揚げたてでも皮がしなしなしていた。60点)、かぶのカニあんかけ、油あげとワカメの味噌汁(朝に同じ)、もやしのナムル。私が父の椅子に座るようにしてから三ヶ月(母は今日もちらっと責めるようにこちらを見た)、家の中に空白がある感じは多少埋まっている。凍りついていた家族が溶けて動き出したようにも。ただ、その変化について二人に話すつもりはない。
 観察。食卓での妹は気が急いていた。いつもノロノロ食べるのに春巻を自分の分だけ二本、先に取った。母の皿にも二本、一度に乗せて嫌がられた。テレビでは『金八先生』が印度カレーの話をやっていたが、妹は毎週録画するほど好きな番組を注意力散漫にしかみなかった。早くみんなに食事を終わらせて部屋に入れてしまいたいようだった。
 妹はたくらみに気づかれているとはまるで考えていない風で、目は浮ついているし、急ににやにやしたりした。ひとつのことしか頭にないような顔で、エサにばかり熱中している小動物めいていた。彼女が昔飼ってたハルを思い出した。よくしゃべるインコ。得意なセリフは「イラハイ、イラハイ」「タケヤ、サオダケ」「ミワチャン、カワイイ」だったな。すべて母が仕込んだ。
『金八先生』が終わってすぐ、リモコンをとって私が観てない先週分をわざと再生してみた。本気で観る気などなかった。妹の顔はみるみるくもり、簡単にいらだった。やはり彼女は私たちがいつまでもダイニングにいると都合が悪いのだ。かわいらしいこと!
 ところがそんな事情には一切かまわず、母はドラマのテーマが男女の違いだったと言い出し、カイコのオスメスの話を始め、結果いつものエピソードの連続になった。ビデオを止めて、話に無言でつきあう。
 妹は「桐生とカイコの意外な関係」のあたりでキッチンに入り、片づけものをして食後の時間短縮をはかった。常日頃、作ることしか面白くないと言って片づけは主に母か私にまかせるのに。妹はお茶さえ出そうとしなかった。私は率先してダイニングを出、シャワーを浴びた。終わってすぐに母にも入浴を勧めた。
 私は、それが誰であれ妹が相手とうまくいけばいい、と思っている。本気で。私だってあの日までは二日に一回、彼にtelしていた。わずか3分強ずつだったけれど。簡潔に4分以内と私たちは決めていた。時間を守るゲームのふりをした。本当の理由から目をそらして。
 母、妹は相手が異性だとはついに気づかなかった。何かの事務連絡くらいに思っていたはずだ。それは半年も続いた。そして半年しか続かなかった。やめよう。またこの話だ。
             

        (遠野香の日記より許可を得て抜粋)


[PR]
by seikoitonovel | 2011-10-20 13:46 | 第一小説